2020年10月8日から9日にかけて、北海道の寿都町と神恵内村が歴史的な決断をしました
寿都町が「文献調査」応募決める
いわゆる「核のごみ」の最終処分場の選定をめぐり、後志の寿都町の片岡春雄町長は選定の第1段階となる「文献調査」への応募を決めたことを明らかにしました。国が2017年に調査対象になる可能性がある地域を示した全国の「科学的特性マップ」を公表して以降では初めての自治体になります。
原子力発電所の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の最終処分場の選定をめぐり、寿都町は8日午後、町議会の全員協議会を開き、選定の第1段階になる「文献調査」への応募について意見を交わしました。
この結果を受けて片岡春雄町長は記者会見し、「住民説明会、産業団体への説明会が終わり、私の判断として文献調査の応募を本日決意した」と述べ、文献調査への応募を決めたことを明らかにしました。
応募の理由について片岡町長は「反対の声が多く感じられるかもしれないが、多くの賛成の声も私自身に直接、相当の数がきている。そういう判断の中で私は一石を投じ、議論の輪を全国に広げたい」と説明しました。
調査に応募した場合、国が3年前の2017年に調査対象になる可能性がある地域を示した全国の「科学的特性マップ」を公表して以降、初めての自治体になります。
出典:2020年10月8日 NHK NEWS WEBから抜粋
神恵内村が文献調査受け入れ決定
いわゆる「核のごみ」の最終処分場の選定をめぐり、後志の神恵内村は調査の第1段階となる文献調査を受け入れることを決めました。国が3年前に調査対象になる可能性がある地域を示した全国の「科学的特性マップ」を公表して以降、調査を受け入れる自治体は寿都町に続いて2例目となります。
原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の最終処分場の選定をめぐり、神恵内村では8日に臨時の村議会が開かれ、地元の商工会から提出された調査の受け入れを求める請願が審査され、採決の結果、賛成多数で採択されました。
9日午後には経済産業省の幹部が村を訪れて文献調査の実施を申し入れ、そのあと村議会の議員協議会が開かれ、申し入れについて意見が交わされました。
この結果を受けて、高橋昌幸村長は夕方に記者会見を開き、調査の第1段階となる「文献調査」を受け入れることを決めたと表明しました。
国が3年前に調査対象になる可能性がある地域を示した全国の「科学的特性マップ」を公表して以降、調査を受け入れる自治体は同じ後志の寿都町に続いて2例目となります。
出典:2020年10月9日 NHK NEWS WEBから抜粋
私も北海道民なので動向が気になってましたが、これにはビックリしました
ちなみに、寿都町の片岡町長は町職員だった1989年に、自治体として全国初の風力発電の導入を導いた立役者でした
そして2001年に町長に当選した後も風車を増設してきた結果、現在では売電収入が2億円以上にまで増加したと語っており、エネルギー政策には特に力を入れている町長のようです
もう一方の神恵内村は地元住民(商工会)からの請願を受け入れる形で応募を決めました
神恵内村は原発のある泊村に隣接しており、雇用や交付金などで恩恵を受けてきた歴史がある一方、人口は約800人と過疎化が止まらない状況となっているので、それをなんとか打開したいという思いがあったようです
「核のごみ」の最終処分場選定に向けた応募は全国初なので、国民、特に北海道民としては今後どのようなことが行われるのかとても気になると思います
そこで今回は
というギモンについて私が調べたことをお伝えしていきたいと思います
目次
そもそも「核のごみ」ってなに?
連日のニュースや新聞で「核のごみ」という言葉が飛び交っていますが、そもそも「核のごみ」というのは何なのか?を簡単に解説していきます
ちなみに専門家ではないので「NUMO(原子力発電環境整備機構)」などで説明していることをかみ砕いて説明します
「核のごみ」とは?
一言でいうと「核燃料をリサイクルしたときに出る廃液」です

【出典:資源エネルギー庁】
原子力発電は「ウラン」や「プルトニウム」という物質を核分裂させ、その時に出てくる熱エネルギーを利用して発電しますが、核分裂が終わったあとの物質が全部ゴミになるわけではありません
核分裂が終わった物質は図のように「再処理工場(青森県六ヶ所村)」でリサイクル処理され、95~97%は再利用できる物質に戻ります
しかし、残りの3~5%の廃液だけはどうしても再利用できないため、廃液をガラス原料と高温で混ぜ合わせ、それをステンレス製の容器に入れて冷やして固めます
ガラス瓶に廃液を入れて固めるのではなく、ドロドロに溶けたガラスに廃液を混ぜて固めるイメージです
それが「核のごみ(ガラス固化体)」です
ガラス原料が使われているのは、ガラスの成分が廃液を長期間にわたって安定した状態で閉じ込めておくことができるからです
例えばカラーガラスが割れたとしても中から色の原料は流れ出てこないように、ガラスの成分が廃液と混ざって固まるので、流れ出す心配がないという原理です
ガラス固化体はどれくらい危険なの?
製造されたガラス固化体は200℃以上の高温で、近くに動物がいるだけで死んでしまうくらいの放射線量があるので近寄ることすらできません
非常に危険な物質ですが、厚さ1.5~2メートルのコンクリートで囲んでしまえば人体に危険がないレベルまで放射線を防ぐことができるため、青森県の六ヶ所村の施設では2,000本以上のガラス固化体が安全なレベルで貯蔵されています
ガラス固化体が発する放射線は時間とともに減っていきますが、1万年を経過しても人間が触ることができない放射線量が残るとされているので、無害化までには途方もない年月がかかるといわれています
ガラス固化体は何本くらい存在するの?
日本に存在するガラス固化体の数は2,492本(2021年3月末時点)で、青森県六ヶ所村の貯蔵施設に2,176本、茨城県東海村にある日本原子力研究開発機構に316本が保管されています
これはあくまで「再処理してガラス固化体にした量」です
当然、まだガラス固化体にしていない使用済燃料が大量にあるので、それをリサイクル処理したとすると約23,000本以上のガラス固化体が新たに発生すると計算されています
ちなみに、六ヶ所村の施設で貯蔵できる本数は2,880本しかないので、あと700本ほどしか貯蔵することができません

【出典:NUMO】
最終処分場の選定へ応募するとどうなるのか?
ここから本題に入っていきます
先ほど説明した「ガラス固化体(核のごみ)」の最終処分場を決めるためには「文献調査」「概要調査」「精密調査」という3段階の調査があり、最終的に決まるまで約20年もかかります
ちなみに調査は国ではなくNUMO(原子力発電環境整備機構)という会社が実施します

【出典:NUMO】 このように各調査が終わった時点で自治体に意見確認をして、反対した時点で調査はストップするとしています
と思うかもしれませんが、それを言い始めたらキリがないので、とりあえずNUMOの説明が正しいという前提で話を進めていきます
今回、寿都町と神恵内村が応募したのは第1段階にあたる「文献調査」ですが、具体的に3つの調査は何をするのかというのをできるだけわかりやすくお伝えします
調査① 文献調査
一言でいうと「事前調査」です
文献調査の段階では現地で穴を掘ったりなどの確認はせず、その名のとおり地質図や学術論文などの文献やいろいろなデータを使って地下の状況を確認していく調査です

【出典:地層処分に関する文献調査について(NUMO)】
この調査では主に
① 地層の著しい変動がないか(火山活動や隆起、侵食など)
② 岩盤の強度に問題はないか
について確認しながら2年程度をかけて評価していきます
この資料を見る限り、調査を進めるかストップするかの最終判断はNUROではなく国(経済産業省)がするようです
調査② 概要調査
文献調査で地質などに問題ないことがわかり、自治体や住民からも反対がなければ第2段階の「概要調査」へ進みます
「概要調査」は簡単に言うと「現地確認」です
文献調査の結果をもとにして現地の地表を確認したり、実際に穴や溝を掘りながら本当に地下深くまで穴を掘ることができるのか、岩盤の強度に問題がないかを確認しながら第3段階となる「精密調査」をするための場所を選定していきます
調査期間は文献調査の2倍となる4年程度が予定されています
この調査が終わった後も、経済産業省が自治体(住民)の意見を聞きながら調査を進めるかストップするかの判断をすることになります
調査③ 精密調査
いよいよ調査の最終段階です
概要調査のときに選定した場所をさらに細かく調査し、実際に地下のトンネルを作って岩盤や地下水に関する調査や試験をしていきます
この調査は約14年もの年月をかけて実施することが予定されているので、概要調査とは比べ物にならないくらいの細かな調査となります
この調査に合格し、自治体や住民から反対などがなければ国(経済産業省)が最終処分場として決定します
調査内容まとめ
以上のように最終処分場として選定されるためには、約20年をかけて3段階の調査をしていきます
調査の内容をまとめると
① 文献調査(2年程度)
・文献やデータなどで地質などに問題がないかを確認する
・現地確認はしない
② 概要調査(4年程度)
・文献調査の結果をもとに現地確認をする
・実際に穴や溝を掘って問題ないかを確認し、問題なければ「精密検査」をする場所を決める
③ 精密調査(14年程度)
・概要調査の時に決めた場所をさらに細かく調査する
・実際にトンネルを掘って地盤や地下水に関する調査をする
という流れです
文献調査に応募したからといって「じゃあすぐに施設を作って埋めましょう」という話にはなりません
そもそも現時点の核のごみ(ガラス固化体)はまだまだ地中に埋めることができません
というのも、六ヶ所村で貯蔵しているガラス固化体はまだアツアツの状態なので、それを十分に冷ましてからじゃないと地中に埋めることができません
それが可能になるのは30~50年後といわれており、その間は青森県六ヶ所村の施設で保管しながら冷却作業を進めます
そのため、何のトラブルもなく最短で処分場の稼働をスタートできたにしても、それは2050年代に入ってからの話になりそうですし、すべてが順調にいくことはありえないと思うので、個人的には今世紀中に実現できればいいほうなのかなと思います
おわりに
最後に私の考えも書いていきたいと思いますが、もし反対だと思っているのでしたら不快になるかもしれませんのでブラウザバックしてください
私はこの記事を書く前は寿都町と神恵内村の判断に反対でした
いちおう道民の1人なので、リスクしかもたらさないゴミを北海道に持ってきてほしくないと考えていたからです
ですが、いろいろな文献やデータなどを調べた現在では「仕方のない判断」 だったと考えを改めました
結果的に180度変わってしまいましたが、理由は2つあります
1つめは 「対案がどうしても思いつかないから」です
ニュースも世論も道庁の発表でも反対意見が大多数ですが、誰も国とNUMOが推進している「地層処分」に代わる対案は言っていませんし、寿都町と神恵内村が抱える様々な問題に対する解決策も出していません
反対意見のどれもこれもが「慎重に議論を・・・」「住民ともっとよく対話をして・・・」などの先延ばしや逃げの話ばかりです
反対するのであれば、それに代わる考えが必要だと思っています
寿都町も神恵内村も、いつまでたっても進まない核のごみ問題に一石を投じたいという思いがあったと思いますが、その裏では止められない財政難や過疎化を交付金で打開したいという考えもあったはずです
ですが周囲は損得勘定や不安感だけからくる反対意見しか言わず、その問題に対する解決策を提案してくれる人はいません
道内の市町村を支えるべき立場の北海道庁も、鈴木知事は「条例を順守してほしい」としか言わず、応募を思いとどまらせるような策を提案することもできません
対案が思いつかない以上、私には寿都町と神恵内村の考え方を否定することができませんでした
もう1つの理由は 「核のごみ問題は絶対に避けて通れない道だから」です
冒頭でもお伝えしましたが、核のごみ(ガラス固化体)はすでに約2,500本も存在し、これから処理が必要な分も含めれば約26,000本相当にもなります
そして全国で原発が稼働している限り、この量はどんどん増え続けていきます
原発がもたらしてくれる恩恵を受けている一方で、いざ寿都町や神恵内村のように負の遺産(核のごみ)に関心を持つ自治体が出てくると、一斉に反対運動を起こします
原発を反対している人にとっては「国が勝手に原発を作ったくせに、ごみを受け入れろなんてとんでもない!」 と感じているだろうと思います
ですが原子力発電所というものは現に存在し、私たちはその恩恵を受けてしまっています
恩恵を受けていないと主張できるのは電気を一切使わずに車にも電車にも乗らず、完全に自給自足で生活している人だけです
原発の恩恵を受けてしまった以上は、それが吐き出すごみのことをみんなで考えなくてはなりません
今回の応募に対する反対意見で特に目立つのは
といった意見でした
たしかに気持ちはわかります
私だって何のメリットもないごみを北海道に埋めてもらいたくはないです
しかし何らかの方法で私たちのいる地上から隔離して処分しない限り、地上に核のごみが溢れかえってしまいます
北海道にも泊原発があるので、そこにも再処理されていない大量の使用済廃棄物が眠っていますし、全国に目をやれば現時点でもガラス固化体約23,000本相当の使用済廃棄物が地上に存在します
誰も何とも感じていないかもしれませんが、これって非常に危険な状態だと思いませんか?
地元を大切にしたいという気持ちはよくわかりますが、それ以前に「将来の子供たちのために核のごみを地上に残さない」ということを考えて行動していかないと、それこそ将来の子供たちが困ることになります
地元を愛する人たちの立派な意見のように聞こえますが、実際は 将来の子供たちのために」と言いながら「将来の子供たち」に責任をなすりつけようとしているのと同じことです
そして北海道庁がその先陣をきってしまっているのが本当に情けないです
北海道庁は2000年に「北海道における特定放射性廃棄物に関する条例」というのを制定しました
北海道における特定放射性廃棄物に関する条例
北海道は、豊かで優れた自然環境に恵まれた地域であり、この自然の恵みの下に、北国らしい生活を営み、個性ある文化を育んできた。
一方、発電用原子炉の運転に伴って生じた使用済燃料の再処理後に生ずる特定放射性廃棄物は、長期間にわたり人間環境から隔離する必要がある。
現時点では、その処分方法の信頼性向上に積極的に取り組んでいるが、処分方法が十分確立されておらず、その試験研究の一層の推進が求められており、その処分方法の試験研究を進める必要がある。
私たちは、健康で文化的な生活を営むため、現在と将来の世代が共有する限りある環境を、将来に引き継ぐ責務を有しており、こうした状況の下では、特定放射性廃棄物の持込みは慎重に対処すべきであり、受け入れ難いことを宣言する。
2000年10月24日施行
これは北海道幌延町に核燃サイクル機構が計画した深地層研究所(高レベル廃棄物の地層処分研究施設)の受け入れを容認するに際して作られた条例で、北海道庁(鈴木知事)が反対している根拠でもあります
いろいろと聞こえのよいことが書いてありますが、私の解釈では
「地層処分が100%安全だと実証されない限りは受け入れないんで、その前に埋めるなら他の都府県にしてくれや(泊原発にも核廃棄物があるけどそれもよろしく)」
という意味にしか見えません
「私たちは、健康で文化的な生活を営むため、現在と将来の世代が共有する限りある環境を、将来に引き継ぐ責務を有しており・・・」
という文言の中には「地上に残されている核のごみの処分」のことは含まれていないのでしょうか?
あげくの果てには「頬を札束で叩くやり方だ」と国に噛みつく始末です
これは明らかに感情に任せた暴言で、都道府県の長が言ってよい言葉とは思えません
気持ちはわからなくもないですが、どこの市町村も絶対に受け入れたくない「核のごみ」を受け入れてもらうのですから、その対価は「お金」しか思いつきませんし、現実的にもそれしかないと思います
それが「頬を札束で叩くやり方」だというならば、他にどのような対価や解決法があるというのでしょうか
私は「地層処分」がベストな方法だとは思いません
しかし「宇宙処分」は発射失敗時の大きなリスクがあり、「海洋投棄」も「南極の地下で処分」するのも条約で禁止されています
そしてこのままダラダラと結論を出さずに地上に置いてしまうことは、災害時の危険性や後世への管理負担から考えて最も愚策だと思います
そうして消去法のように考えていくと、現状では「地層処分」しか選択肢が残されていないのではないでしょうか
といっても実際に埋めるまでには30年以上の年月が必要なので、その間に他の技術が開発されたら方向転換していけばよいだけのことです
30年以上あれば「地層処分」以上の処分方法が確立されても何ら不思議なことではありません
現在も「レーザーを使った放射能の除染技術」のように新たな技術が日々研究され続けています
もしそういった技術が確立されて核のごみを無害化できたならば、安心して地中に埋めることだってできるはずです
原発の恩恵をたくさん受けてきた私たちが責任をもって道筋をたてなければ、将来の子供たちは核のごみだらけの地上を歩くことになります
大げさな表現のように聞こえるかもしれませんが、原発を止めずにごみの処分方法も決められなければ確実にその未来が待っています
知らなければそんな実感もわかないと思いますが、知れば知るほど深刻な状況だということがわかります
政治家や自治体は現実から目を背けながら国民に対して正直に説明せず、マスコミは聞こえのよい反対意見ばかりを報道しながら不安をあおり続けた結果、誰もが疑心暗鬼に陥り、自分たちの土地にだけは持ってくるなという感情が形成されてしまっています
そういった意味でも、今回の寿都町と神恵内村は歴史に残る決断をしたのではないかと思います
今回の寿都町と神恵内村の決断は、核のごみ問題をみんなで考える大きなチャンスになると思います
この記事が少しでもご意見の参考になれば幸いです
それではまた