公務員の話

【公務員の話⑫】知事や市町村長から職員へ寄付金を求めたらどうなるのか?(元地方公務員の経験談)

今回も気になったニュース記事があったのでご紹介しながら、私の経験談や意見なども少し書いていきたいと思います

新型コロナウイルス対策の原資として約600人の正規職員から国の特別定額給付金(1人10万円)と同額の寄付を集めることを想定した予算を組んだ兵庫県加西市が、非正規職員500人余りにも寄付を呼びかけていたことがわかった。市は寄付を「強制ではない」と強調するが、正規職員に比べて立場の弱い非正規職員にも対象を広げていることを疑問視する声が市内部から出ている。

市が正規職員とあわせて寄付を呼びかけたのは「会計年度任用職員」と呼ばれる非正規職員。原則1年単位の契約で雇用される職員で、現在554人。

事務補助のほか、保育士・幼稚園教諭、保健師、調理員、看護師ら職種は様々だ。市は5月18日、総務部長名の文書で正規・非正規の全職員あてに寄付を呼びかけ、6月の期末手当からの天引き依頼書も添えた。

市の正規職員の一人は「非正規の職員同士で『私たちも寄付しないといけないのだろうか』と悩んでいる姿をみた」と話し、別の職員は「(非正規は)雇用が不安定なうえ、賃金格差もある。立場の弱い人たちへの寄付依頼は乱暴な印象を受ける」と疑問視する。

非正規職員でつくる組合の一つは機関紙で「寄付というのは、個人の意志で『する・しない・金額・方法』などを決めるものです。誰かに言われてするものではありません」と呼びかけている。

加西市の西村和平(かずひら)市長は23日、朝日新聞の取材に「私が市長として寄付を呼びかけた対象は正規職員までにとどめている。(非正規も対象に含めた)総務部長名の文書は、寄付への私の思いを市役所内に周知するためだった」と説明。「非正規職員からも自主的な寄付は受け取るが、正規・非正規問わず、職員に寄付を強制するような考えは全くない」と強調した。

【出典:2020/6/23 朝日新聞デジタルより】

どこかの自治体でやるだろうなと思っていたら、やはりやってしまいましたね

トップが独裁者の小さな町や村でありそうだなと思っていたのですが、調べてみると人口4万人くらいで職員も600人以上いる自治体だったので驚きでした

寄付前提の予算なんて許されるの?

・自治体が事業をするときは確実な「財源」が必要

・事業に使う予算は「議会」で認められなければならない

・事業の財源が「いくら集まるかわからない寄付金」だとしたら、通常は議会で認められないはず

・自治体として寄付金を強制するのは「地方財政法」違反の可能性がある

自治体が事業などに使う予算を計画するときには、実行するための確実な財源を用意する必要があります

例えば「税金」「補助金」「交付金」「公債(借金)」など、確実に用意できるお金を根拠としながら事業を計画しなくてはなりません

 

そして「予算」を決めて使うためには、自治体のトップから議会へ予算案として提出して認めてもらわなくてなりません

当然、議会は提出された予算案をチェックし、「財源は本当に大丈夫なのか?」「必要な事業なのか?」「予算額は妥当なのか?」といったような疑問を自治体のトップにぶつけていきます

そのため、もし予算案の中にこれから集める「寄付金」が財源の事業なんてあったら、まっ先に議員から指摘されるはずです

 

もし私が議員ならまっ先に

寄付が集まらなかったら事業はどうするの?

とツッコミますよ

そして事務方からの答弁で

寄付が集まらなかったらしょうがないんでヤメますね

あ、でも他の事業で予算が余ると思うんで、それ使いますよ

といった答弁をされたら、ふざけんなバカですよ

市長や事務方がどう答弁したのかわかりませんが

職員から絶対に絞りとるので大丈夫です!

とでも答弁しない限りは、納得してもらえないと思います

もちろん、こんなことを議会の場で言ったら大問題になるので、裏でこっそりとですが

 

もし本気でそんなことを考えているとしたら「地方財政法」という法律に違反している可能性があります。

【地方財政法】

(割当的寄附金等の禁止)

第四条の五

国(国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第八条、第八条の二又は第八条の三の規定に基づき設置される機関で地方に置かれるもの及び同法第九条に規定する地方支分部局並びに裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)第二条に規定する下級裁判所を含む。)は地方公共団体又はその住民に対し、地方公共団体は他の地方公共団体又は住民に対し、直接であると間接であるとを問わず、寄附金(これに相当する物品等を含む。)を割り当てて強制的に徴収(これに相当する行為を含む。)するようなことをしてはならない。

要するに「地方公共団体は住民に寄付金を割り当てて強制しちゃダメ、絶対に」ということです

職員も「住民」の定義に含まれるかどうかが裁判で争わないとわからないですが、個人的には当てはまるんじゃないかなと思います

憲法違反にはならないの?

・自治体の長が職員に寄付を強制しているとしたら「財産権」の侵害になる可能性がある

・兵庫県加西市の場合は、市長は「強制ではない」と言っているが・・・

日本国民は憲法で「財産権」が保障されています。

【財産権とは?】

日本国憲法第29条で決められている「財産に関する権利」の総称。

一言でいうと「他人の財産(お金、不動産、著作物など)を侵害しちゃダメ、絶対に」と決められています。

当然ですが、もし市長が職員へ10万円の寄付を間接的であっても強制していたとしたら、裁判で争わないとわからないですが「財産権の侵害」となる可能性があります

ニュース記事では「強制ではない」と書いてあるので、間接的な強制もないとしたらギリギリセーフかもしれませんが・・・

職員は実際にどう感じているのだろう?

【私の経験に基づく推測ですが・・・】

・加西市の職員は、幹部や上司から「寄付は強制ではない」と言われつつも強制のように感じていると思います

・寄付を仕切っている「総務部長」という役職は、職員の人事を決める権限を持っている場合が多いので「もし寄付に従わなかったら不当な人事をされる」と恐れている職員もいるはず

・そのため、職員は基本的に総務部長の言うことには逆らえません

[理由]

・役所(公務員)の体質がとても古い職場が多く、「忖度」「上意下達」「命令には絶対服従」が当たり前の社会となっている自治体が多い

・特に上司への「忖度」の体質が非常に強い自治体が多い

・加えて職員同士の「同調バイアス」が強い職場が多い

残念ながら加西市の職員として働いたことがなく、情報もニュース記事くらいしかありませんので、ここから先は実際に地方公務員として働いていた経験をベースに、加西市の職員になった気持ちで書いていきます

もし私が加西市の職員だったとしたら

「強制ではないと書いてあるけど、総務部長から言われたら寄付するしかないか・・・」という考えになると思います

「天引き依頼書」までついているのですから一瞬でお察しです

もし加西市が私が働いていた職場と同じような体質だとしたら、よほどお金に余裕がない職員以外は私と同じ考えになるんじゃないかと思います

 

加西市役所の体質はわかりませんが、役所に多い体質として「忖度」「上意下達」「上司からの命令には絶対服従」という体質があります

私が働いていた役所でも、まさにこのような体質でした

ちなみに地方公務員を辞めた後に民間企業でも働いていましたが、雰囲気はぜんぜん違いました

同僚に地方公務員時代の話をしたら「30年前の民間企業みたい(笑)」と笑われました

 

そして、どこの自治体でも「総務部長」という役職は強大な権限を持っています。

予算関係はもちろん、職員の将来にとって1番大事な「人事」の権限を握っているのも総務部長という自治体が多いです

その「総務部長」が今回の寄付を仕切っている以上、もし従わなかったらその後に人事などで仕返しされる可能性もあります

そのため、ほとんどの自治体では総務部長が言うことに職員は逆らえないはずです

 

また、職員同士での「同調バイアス」が強い職場が多いです。

【同調バイアスとは?】

簡単に言うと「周りにたくさんの人がいると、とりあえず周りに合わせようとする心理状態」のことです。

同調バイアスにかかると、たとえ自分の判断が周りと違っていても周囲の判断に流され、それに合わせてしまいます。

日本全国の役所を経験したわけではないので断言できないですが、経験してきた職場のほとんどがこのような文化でした

1番わかりやすいパターンは職場の飲み会の出欠確認で、出欠の回覧をしても最初の出欠がなかなか決まらず、誰もが保留して様子をみるのです

そして、だんだん多いほうに周りが合わせていくという感じです

日本人は子供のころから学校で集団行動を叩き込まれる影響で同調バイアスが強いといいますが、公務員は特にそれが強いと感じました

公務員になるくらいだから保守的な考えの職員が多いはずなので、こうなるのは必然なのかなと思います

 

加西市に話を戻すと、おそらく「寄付する」が多数派になってくると思います

そして「同調バイアス」が強い職場なら、周りの同僚たちが寄付しているのに自分だけ寄付しないと考えるのは難しいと思いますし、職場によっては干されるかもしれません

こうなってくると、たとえ市長が寄付を強制していないとしても職場内の雰囲気が「寄付すべし」となり、同調バイアスで従わざるを得ない流れになってしまうと思います

市長が「寄付は強制ではない」と言いつつ予算計上しているのも、それを知ってのことなのかもしれません

 

余談ですが、私が働いていたとある職場で、クラウドファンディングの事業を立ち上げたことがありました

その時に職場のトップから「強制ではない」と言いながらも出資のお願いがあって、結局職員全員が従っていました

私は出資する価値のない事業だと思ったのですが、いくら出資するかを記入する回覧が全員に回ってくるのです

で、最終的に私だけ出資額が空欄なのを同僚や上司が見て、思いっきり同調圧力をかけられました

今なら簡単に跳ね返せるのですが、洗脳されていた当時の私はあっけなく屈してしまいました

おわりに

住民が苦しんでいる新型コロナウイルスへの対策のために、職員有志から寄付を募って住民のために使うというのはよい話だと思います

しかし、強制ではないと言いつつ役所の権力者である総務部長に寄付の依頼をさせたり、文書と一緒に天引き依頼書をつけるというのはやりすぎです

天引き依頼書をつけたのは総務部長が市長に忖度してのことだったのかなと思いますが

そもそも事業費の予算に「寄付金」で計上している時点で「忖度」や「同調バイアス」という心理を利用して、半強制で職員から徴収してやろうという魂胆がみえみえです

 

公務員というのは給料や待遇は安定していますが、今回ご紹介したように組織自体の体質が古くて腐っている自治体が今でもたくさんあるので、もし目指しているのでしたら事前にしっかり調べておいたほうがよいです

私が働いていた職場でも、採用されて3ヵ月くらいで「組織の体質が古すぎる」という理由で辞めていった若者が何人もいました

それではまた

ABOUT ME
もぐすけ
元地方公務員の脱サラ中年「もぐすけ」です。 誰もが思いそうな素朴な疑問(略して「そぼぎ」)について情報発信しています。

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